安波茶をさる 全員ここで玉砕か? 決意さなかに転身命令

 大きなサク裂音。土砂くずれの音。どうくつの奥から太助を求める叫び。はらわたをえぐるようにひびく。戦車砲弾が監視所に命中、直撃弾で、輪島盛信上等兵と三浦喜久雄一等兵が戦死し、その絶叫だった。たえまない砲弾のサク裂で、どうくつ内が振動しつづける。じっとしている以外、どうにもならない。

 ひとしきり、すさまじい砲撃。そしてやんだ。ホッとわれにかえった。とたんに

 『敵襲ッ!』

 小銃隊の兵隊が銃を握って外へ走る。速射砲隊の兵隊も四、五人銃をもってあとを追う。外から機関銃、小銃を撃ちあう音がひびいてくる。泣きわめく大声。見れば、負傷した米兵が、陣地へ逃げてゆくところだ。

 日本軍の必死の防戦。米軍は形勢不利とみて、後退して行った。敵味方ともに相当な被害だ。全員、ここに玉砕―を決意しているところへ転進命令がきた。 

 『五月四日総攻撃を決行、一大攻撃に転ずるから、山兵団は各部隊ごとに集結せよ』

 守備陣地安波・茶を球兵団にまかせ、山兵団は、この夜ここを後退することになった。

 来るときは、どうにか通ってこれた道が、すでに敵の射程距離内になっている。集中砲火をあびながらの後退。危険感はすでに現実となってあらわれ、樋口幸彦伍長ほか二、三人の負傷者がでた。

 第二分隊は、砲を分解してからかつぎ、道もない雑草のなかを後退した。途中、第一分隊と合流、運玉森を右に見て、東海岸を見おろせる棚原付近で中隊主力と一緒になった。

 すでに中隊では、十一人の戦死者がでていた。

速射砲中隊戦死者九十五人(3)

=敬称略= 山崎瑛峰さん調査(小樽市緑町四ノ八)

 灰谷弘(函館・六月二十日島尻伊敷)山田幸次郎(岩内・六月二十日伊敷)土井由松(岩内・四月十三日首里一五○高地)吉田武好(木古内・五月十三日紅葉山)鈴木金三郎(幌別軍幌別・六月二十日伊敷)金谷忠義(函館・六月四日志多伯)千葉辰雄(函館・六月二十日伊敷)佐々木忠勝(茅部郡大野・五月二十日一四○高地)三浦喜久雄(函館・五月二日阿波茶一○○高地)柿坂義忠(岩内五月十七日一四○高地)七尾長光(長万部・五月十六日一四○高地)能登谷金治(不明・五月二十日一四○高地)島口晴(不明・五月二十日一四○高地)池田利光(大野・六月二十日伊敷)星山吉広(爾志郡乙部村字水谷・六月二十日伊敷)蛯子達雄(森・五月十五日首里一三二高地)高田正雄(桧山郡上の国・五月二十日一四○高地)若山富士雄(亀田郡トドホッケ村・五月二十日一四○高地)加藤鶴美(小樽豊川町・六月二十日伊敷)高橋賢次郎(不明・五月十七日一三○高地)中根金治郎(余市大川町・五月二十日一四○高地)赤沼幸治(不明・四月二十五日紅葉山)対島富司(亀田村・対島弥一方・六月二十日伊敷)

戦記係から あす八日午後六時からタイムス六階ホールで『北海道沖縄会』の創立総会を開きます。遺族、遺児その他関係者は、ぜひ時間厳守でご参集ください。

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