摩文仁へ 照明弾で昼のよう 思うように進めず

 命令には従わねばならぬ。杢大伍長は、身をさかれる思い―

 〈しかたがない・・・〉

 島袋二等兵(沖縄)をうながし、真壁のゴウを飛び出した。

 右にも敵兵の姿。たえまない爆発音で鼓膜はやぶけそう。死んだ気になって走った。距離は約一千五百㍍。敵に撃たれながら八地区についた。

 〈よく到着できたものだ・・・〉

 生命のふしぎさ―を考えた。

 ゴウ内に小銃弾数千発が保管されてある。これを歩兵部隊に最期の補給する。伍長は岡田曹長に命令内容をつたえた。任務を交代した曹長はゴウから駆け出した。(本部へ着かないうちに曹長は敵弾に倒れた―ということを伍長は、あとで知った)

 伍長は弾薬点検のため、ゴウの奥へ進んだ。弾薬箱のうえに負傷兵がびっしり寝ており、これを県立第二高女生、積徳高女生らの白梅部隊が、まめまめしく看護している。この光景に胸をつかれた。

 軍医もいた。

 〈彼らは、ゴウから外へ出ないので総攻撃の命令もしらないのだ〉

 伍長は、彼等にいっさいを告げた。歩兵部隊からの弾薬受領者にタマを渡し、ふたたび島袋二等兵と敵弾のなかを真壁のドウクツへもどり、部隊とともに米須へ後退した。

 米須のゴウは、入り口が数カ所、奥行きもかなりある。だが弾薬と負傷者で身うごきに死体を積む。

 敗戦の事実が身に迫ってくる。

 『麻之仁へ行こう』

 伍長は島袋二等兵をさそった。六月二十四日夜、米須のゴウを出発、米須の東側から山腹の掘りわり道路にさしかかったとき、照明弾が上がった。

 『伏せろ! うごくなッ』

 照明弾は、つぎつぎと、五、六分間もあがりつづける。昼間と同じ明るさ。一歩も進めない。

 じっと、照明弾のとぎれるのをまち、おりを見て走り、伏せる。何度かこれをくりかえしてやっと道路の中間(出発点から約二㌔)まできたとき、午前三時すぎだった。

 西の空からまっ黒い雨雲がでてきた。

 『夜あけとともに雨に降られるぞ。それに、目の前は敵陣地だし、困ったなあ・・・』

 伍長と二等兵は万策つきてすわりこんだ。

 『ここで死ねば犬死です。どこか穴をさがしましょう』

 島袋二等兵に元気づけられ、付近をさがした。子供でも掘ったのか、道路わきに入り口五十㌢、奥行き二㍍くらいのタコツボをみつけた。ふたりは、そこへはいって敵弾をさけた。

 午前六時ころ、ひとりの一等兵が走ってきた。タコツボのふたりを発見すると、息をはずませながら

 『たのむ、俺もいっしょにいれてくれ』

 ふたりでもやっとのところへもうひとり―しかし、ことわることもできない。土のなかへ生き埋めにされたような苦しさ。

 三人は汗をかき、のどがかわくのをがまんして、じっとからだをよせあっていた。

 そのうちに、どうにもならないことがもちあがったのである。

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