探知機 エンジンの音とらえ  すぐ雨のような砲撃

 山三四八三部隊の本部は、首里―南風原の中間の谷間にあった。各中隊は本部のゴウから指令をうけとり、前線への輸送任務についていた。

 五月中旬、雨期にはいり、道路は砲弾と雨で泥田にかわった。そのなかで、前線へのトラック輸送は困難をきわめた。輜重隊は、八重瀬岳付近の弾薬ゴウから前線への輸送任務についていた。そのコースの南風原の十字路は前線にいる山兵団のただ一本の補給路だった。夜昼ない砲弾撃で十字路は補修するあとから破壊された。

 だが、この十字路は山兵団の生命線、いかに破壊されても確保しなければならなかった。

 十字路付近に、相当数の兵隊がタコツボを掘ってかくれひそんでいた。

 彼らは、砲撃がやむとすぐ、タコツボから飛び出し、全力をあげて道路の補修工事をする。砲撃中でも輜重部隊がくると、タコツボから出て作業にあたるため、犠牲者が続出していた。細田軍曹は、ここを通過するたびに、戦闘のえんの下の力持ちとして戦死してゆく戦友のめい福を祈った。

 〈だれもほめてくれない。だれも認めてくれない。だが、俺は知っている。俺たちも同じえんの下の力持ちだからなあ・・・〉

 なんという部隊であったのか、この十字路守備隊の名は永遠にナゾのままだろう。工兵部隊も輜重部隊同様。戦死者が多く、詳細は不明だから。

 戦線が敵に押されてからは、東風平部落の通過が魔のコースとなった。

 夜ごと、部落を通過するたびにトラックは砲撃をうけ犠牲者が出た。敵は、トラックのエンジンの音を探知機でとらえ、それを目標に砲撃するらしい―ということがわかった。そこで対策を考えた。

 一台のトラックに、特にエンジンの音を高くさせて東風平部落を通過させた。がぜん、ものすごい砲撃が開始された。ほかのトラックは、茂みのなかにかくしてあった。砲撃がやんだ瞬間、かくしてあったトラックを走らせ、無事、全車両通過させつことができた。

 夜間の艦砲射撃は、サク裂音と同時に、砲弾の破片と土、石が付近一帯に飛びちる。トラックはどこかを破壊され、かならず戦死者が出た。だが一日といえど輸送を休むことはできない。

 輜重隊のこの苦労にたいし、牛島司令官から感状が贈られ、感激した中村部隊長は、部隊全員に『全部隊は、全力をあげ、戦局を有利に好転させる努力をはらうように』と厳命がくだった。

 しかし、山兵団の戦況が、日ごとに不利になってゆくことは、輜重隊にはよくわかった。弾薬をおろす場所が、首里戦線から日を追って後退していたからである。

 首里の攻防戦に傷ついた将兵は、首里―南風原間の『赤玉のゴウ』にいっぱいになっていた。

 輜重隊は、弾薬を前線に引き渡すと、この野戦病院から二十人くらいの負傷兵を積んで後方へさがる。

 石、球、山各兵団の手足のないもの、目のみえないもの、その他負傷した大勢の兵隊が、仮の手当てのまま、何日も放置されていた。

 これをトラックで後方の野戦病院・豊城付近へ運んでさがるのだが、そこも負傷兵でいっぱい。負傷兵をおろしようがない。

 軍医や衛生兵は

 『これ以上、負傷兵を収容する場所がない。いくらつれてきても、もう受けとれないぞ』

 腹をたててどなる。

 〈無理もない。しかし俺たちは、ここで患者をおろし、夜あけまえに基地にかえり、車をかくしてしまわねば、かならず爆撃されてしまう。いったい、どうすればいいんだ・・・〉

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です