米軍の戦闘方法 両軍の境に赤い布 飛行機へ位置知らせる

夜が明けてきた。小雨が降りしきっている。五、六千㍍前方の首里の山は、砲弾で赤土色にくずれ、敵兵の姿が点々と見える。平地に赤い布が帯のように敷かれている。彼我両軍の境を飛行機に知らせる米軍機の標示である。

首里に対する米軍の砲撃が活発となり、石峰陣地にも激しくなってきた。雨でやわらかくなった地面に、砲弾が落下すると“ボフッ・・・”と地ひびきし、ゴウの坑木が“ミシミシ・・・”音をたて、いまにもつぶれそうになる。

入り口から外をのぞくと、敵の砲弾、爆弾の落下は、きのうより激しい。雨空なのに敵機は鳥の大群のよう。敵機は、彼等の陣地上空にさしかかると青、赤、緑の落下さんをつけた物資投下を行なう。

〈うらやましいなあ・・・雨で、自動車が使えなくなれば、飛行機か・・・ 〉

これにひきかえ、佐藤上等兵らは、食料品はなく、弾薬も各人が持っているだけだった。

陣地に対する敵の砲爆撃がやむ。敵歩兵が攻撃してくる。上等兵らは、ゴウから飛びだし、陣地につく。攻めてくる敵兵に小銃、テキ弾筒、軽機で応戦する。敵は、すぐ後退する。しばらくすると、ふたたび、陣地に砲弾の雨がふる。やがて砲撃がやみ、敵兵が攻めてくる―何度も、こんな戦闘がくりかえされた。

そのたびに、名前もしらない新補充の兵隊が、ひとりふたりと戦死し負傷してゆく。

夜になると、何組かの切込み隊が編成され、出てゆくが、帰ってくる者はほとんどいなかった。

その夜、佐藤上等兵らは、上の陣地についていた。付近に人の気配を感じた。とたんに、手りゅう弾を投げこまれた。上等兵らは、夢中で防戦した。敵兵は逃げないで応戦してくる。上等兵は最後の手段として、下の陣地から急造爆雷(白絞油のかんに、火薬をいれたもの)を持ってきて、中村軍曹に渡した。そのとき“ヤマ・・・ヤマ・・・”敵から合いことばが聞こえた。

三人の友軍だった。ひとりは上等兵らの手りゆう弾で負傷していた。

彼等は、他部隊から出された切り込み隊で、この陣地が、米軍に占領されているから攻撃せよ―と命令されてきたという。貴重な弾薬を同士うちに空費したことを残念がって帰っていった。

翌朝、陣地前方のくぼ地に、敵軍が猛烈に砲弾を撃ち込んできた。これを、陣地の入り口で監視中の佐藤上等兵は、中平一等兵を使い、ゴウの奥にいる工藤中隊長に報告した。キャタピラの音がきこえ、戦車が前方の山のふもとに姿をあらわした。

その時、友軍戦車隊の将校が軍刀をぬいて走ってきた。

『敵戦車がきているのに、工藤隊の兵隊は何をしているッ! 隊長はどこにいるんだ? ・・・さアそこの兵隊、攻撃せよッ! 清くちれ、きよくちれッ! 』

佐藤上等兵を怒鳴りつけ、前方へ駆けおりて行った。

〈戦車隊の将校は、攻撃方法を知らないから、あんなにあわてているのだ。いま、爆雷をかかえて姿をあらわしたら、戦車にとどくまえに、みんなやられてしまう。敵戦車がもっと近づくまで待つことだ 〉

佐藤上等兵は動かなかった。直属上官の命令でも、不当なものや、不合理なものには、いっさい従わなかった。

〈状況もわからず、ただ命令さえすればいいと思っているのか! 犬死にせよというのか! 〉

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です