首里へ 共に誓った戦友 手りゅう弾に散る

『中平ッ! 』

佐藤上等兵は、飛び込んできた部下の安否が心配だった。

『山上です』

山上上等兵の声。上等兵は勇気がわいた。彼と行動する決心をした。

『動くなッ! 危ないぞ。俺が動くとき、一緒に動くんだぞッ! 』

返事があった。やがて照明弾がくらくなった。“行くぞ! “声をかけて、上等兵は、つぎの弾のあとへ飛び込んだ。ふたりが移動に要する時間は、ほんの二、三秒。その機会をねらって穴から穴へ移動して進むのに、二、三時間もかかった。タマの危険がなくなると、ふたりとも、空腹を感じた。

ゴウから五、六百㍍さがったところに墓穴をみつけた。なかにワラがひいてあった。佐藤上等兵と山上一等兵は、そのなかで休み、前の畑から掘った生イモをかじった。

ひと休みしたふたりは、段畑のあぜを伝わって斜面を登っていった。ゴウの上の敵陣から、火の玉が尾をひいて飛ぶので、敵の配備状況が判断でき前進には都合がよかった。

芦崎分隊の陣地に到着した。ゴウのなかに人のいる気配はないが、陣地上には敵兵の動きが感じられた。上等兵は、手りゆう弾の安全ピンをぬき、斜面をのぼった。陣地の上につくと、寝息きが聞こえてきた。十五、六㍍さきの地面に鉄帽がふたつ見えた。発火して投げた。爆発と同時に、右手から火の玉が飛んできた。すばやく上等兵は斜面をすべりおりた。敵の射撃がやんだ。

芦崎分隊のゴウへはいった。友軍の戦死体が六体ある。不思議なことに、六体とも真新しい包帯をまいたまま死んでいる。

だれか生き残った者がいるはずだ。その生き残りが、包帯をまいたに違いない。

ひとりずつ調べたが、全部死んでいた。芦崎分隊長は、ゴウから一、二㍍出たところで、中隊ゴウの方向をむいて死んでいた。

さっき一緒にタバコをのもうといったのに・・・芦崎、死んでしまったのか・・・俺たちも、すぐ行くからな、安らかに眠ってくれ・・・

胸がふさがれる悲しみのうちに、佐藤上等兵は、戦死者のめい福を祈った。外は薄明るくなっていた。敵兵がちらつくなかを、上等兵と山上一等兵は中隊ゴウへ帰った。

報告をうけた中隊長は、つぎの命令をくだした。

『これから、各隊は陣地配備につく。中村小隊は佐藤、中平、高安をつれ、芦崎分隊の陣地につけ』

四人がゴウを出ようとした時、川添一等兵が伝令として駆け込んできた。

『工藤隊は、首里の本隊へもどることになったぞ・・・』

と明るい声で叫び、奥へ走って行った。佐藤上等兵は助かった・・・

と思ったとたん、急に寒けを感じた。ちらばっているぬれ毛布をひろい、ずぶぬれの全身に巻きつけた。寒くてしょうがない。ガタガタふるえがとまらない。

中村軍曹は、芦崎分隊の戦死状況を見てくる―という。佐藤上等兵は、山の上にいる敵兵に気をつけるように注意した。山上一等兵も一者に行く―といい小隊長に従った。

中隊は撤退準備をはじめた。上等兵はふるえながら毛布にくるまり、明るくなる外をながめていた。

死ぬよりつらい戦闘だった。生きているのが不思議なくらいだ・・・

間もなく、中村軍曹が、くらい顔をし、ひとりで帰ってきた山上一等兵の姿が見えない。軍曹の声は、涙にうるんでいた。

『山上は戦死した。帰りぎわに、山の上の敵兵をたしかめるといって登って行ったんだ。敵を発見し、手りゆう弾をくれ―と降りかけたとき、上からの手りゆう弾攻撃でやられてしまった・・・』

 

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