かたわこじき 服装はみだれ放題 片手にツエ、やぶれた服

満山上等兵ら負傷兵は目をさました。東風平を出発したとき、十二、三人だった一行は、七、八人に減っていた。光岡上等兵の偵察で、中隊は与座の戦闘指令所にいるが、満員だから、連絡するまで、現在地にいるよう―指示をうけた。

満山上等兵らはゴウをさがすべく丘の斜面を横切って歩きだした。二、三㍍の雑木がおいしげっている。一発の敵弾もなく、静かな夕方である。あちこちから地方人や兵隊がでてきた。彼らは三人、五人とたむろし、国頭脱出の相談などをしていた。

満山上等兵らは、岩石がひさしのように突きでた下のくぼ地に住みつくことにした。四畳間くらいの広さ。ついさっきまで地方人がいたようだった。芭蕉の葉をかけたザルに十数個のにぎりめしを見つけ、大喜びでたべた。奥の戸だなにはソラ豆の煮つけ、里芋、とうふなどがあった。罪悪感もなく、何カ月ぶりかで満腹した。

翌朝、くらいうちに中隊本部から保前一等兵がバケツに少量のめしを運んできた。それから四、五日間、保前当番兵のあげてくるめしをくい、なすこともなく日をおくっていた。

弾着が激しくなった。つづいて、迫撃砲弾がスコールのようにやってきた。みるみるうちに、斜面の雑木が吹き飛ばされた。砲撃は夜になってもつづき、激しさをました。だれも口をきく者がいない。いくら待っても、保前当番兵は、その夜、めしを運んでこなかった。

翌日、砲撃は猛烈をきわめ、迫撃砲弾が夕立ちのように降りそそぐ。舞いあがる土砂で、あたりは薄ぐらく、負傷兵たちは穴のなかに身をちぢめていた。その頭上でサク裂音―サッと青白い炎が飛びちる。畳や家具が燃える。タマよけに積んであったのだが、なんの役にもたたない。イオウのにおい―息がくるしい。

〈黄リン弾だ! 敵は山を焼きはらうつもりだな?〉

負傷兵らは必死になって、火のついたものを穴の外へ投げだした。火は、やっとおさまったが、穴の入り口も周囲も、すっかり焼きはらわれてしまった。逃げても撃たれる―と判断し、一同はここで夜になるのをまち、保前一等兵の道案内で中隊本部へ到着した。

与座の戦闘指令所は、一つの山をハチの巣のように縦横にくりぬき、なかにはわき水もあって最高のゴウだった。出入り口が数カ所。その一つを近江隊が守備していた。

『満山上等兵以下五名、ただいま到着しました』

古口准尉は、負傷兵らをじっと見つめ、しばらくはなにもいわなかった。満山上等兵は、顔半分を血とどろでよごれた包帯でかくし、ボロボロの外被(レーンコート)を着てつえをついている。

〈必死の戦闘をつづけているみんなの前にうらぶれたこんな姿をさらすのは、たまらなく恥ずかしい・・・ 〉

ほかの兵も同じような姿。かたわこじきの勢ぞろいのようなものだった。

『満山ッ! 兵は負傷した場合、どうするか?! 』

急所をつかれ、銃剣を持っていない満山上等兵は、口ごもりながら、歩兵操典の一節を暗唱した。

『兵は、戦闘間負傷したるときは・・・ 』

 

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